ONE TO GET HER - ARNOLD KLOS TRIO

エヴァンスからの脱皮、遂に自身のフィールドに花を咲かせたアーノルド・クロス。自らの音に対する自信を強めた達成感に溢れ、これまで起こった全ての出来事を見事に昇華させている。

若き日のアーノルド・クロスはビル・エヴァンスのピアノに激しく心を打たれた。その衝撃はどれ程だったか。恋焦がれ、一心に追いかけ、彼になりたいと真摯に努力を積み重ねてきた。クロスの指に体に心に、エヴァンス魂が刻まれていった。それが自身をがんじがらめにしてしまうなんて……。

前作のレコーディングで一時、取り止めを宣言する程、彼は自分の音探しに苦しんだ。1年余りの後、生まれた本作品。遂にエヴァンスから脱皮し、蝶になって羽ばたいた。「どうしてあなたはエヴァンスの後ろに隠れてしまうのか。自身の音を持っているのに。もうあなたに彼は必要ない」と前作「Heartstrings」のプロモーションの際、知人に言われたという。ライナーノーツで語ってくれたそんな告白からも、本作品に対するクロスの達成感が伝わってくる。

これまで起こった全ての出来事を見事に昇華させている。心地よく美しく優しい。中でもオリジナル曲“One to get her”と“Oh Mathilda”が光っている。最初に現れるフレーズが心に刻まれ、繰り返される度に深みを増す。迷いのないクロスの姿が重なる。その合間に流れ漂う音は、蝶の舞いの様。新境地を見出した彼が、確かにこの中にいる。解き放たれた歓喜の歌をいっぱい詰め込んで。